デイミアン・チャゼルの映画の魅力:「ラ・ラ・ランド」から「バビロン」まで
1, デイミアン・チャゼルとは
デイミアン・チャゼルは1985年生まれのアメリカの映画監督で、元ジャズ・ドラマーから映画監督へという異色の経歴を持ちます。父はコンピュータサイエンスの教授、母は歴史学者であり、文化的な背景に恵まれた環境で育ったチャゼルは、幼いころから映画の魅力に取り憑かれていました。彼の映画製作への情熱は早くから始まり、ハーバード大学での映画学の勉強と並行して、ジャズ・ミュージカルの制作にも取り組みました。
ハーバード大学では、彼は映画理論と製作技術を深く学びつつ、ジャズ・バンドでドラムを担当し、その経験が後の映画製作に大きな影響を与えました。大学での卒業制作として制作された『Guy and Madeline on a Park Bench』は、低予算ながらもその映画的センスとジャズへの情熱が評価され、映画祭で注目を集めました。この作品は、彼の映画キャリアの出発点となり、後に彼の代表作『セッション』へと繋がる重要なステップとなりました。
2,ジャズと映画への深い愛
デイミアン・チャゼルは、「ジャズと映画は私の成長と共に常に存在していた」と語っています。彼がジャズドラマーとしての経験を映画製作に取り入れることで、音楽と映像の見事な融合が実現されています。彼の作品はジャズの魅力と映画のエッセンスが見事に組み合わさり、それぞれのジャンルのファンに新たな鑑賞体験を提供しています。以下では、ジャズと映画が融合したダミアン・チャゼルの代表作を3本紹介します。
セッション
デイミアン・チャゼル監督自身が高校時代にジャズ・ドラマーを志していた経験から着想を得ています。彼は、「最高の音楽を極めるために払われる犠牲、肉体的な苦痛を描きたかった」と述べており、そのリアリティが『セッション』の感動をより深めています。実際に監督はこの映画を通じて、音楽家としての自己犠牲や、芸術への情熱を痛烈に描き出しています。
タイトル | セッション |
公開年 | 2014年 |
国 | アメリカ |
上映時間 | 106分 |
ジャンル | ドラマ・音楽 |
あらすじ
『セッション』は才能と狂気を描いた作品です。この映画は、ジャズドラマーを目指す若き音楽学生アンドリューと、彼を徹底的に追い込む音楽教師フレッチャーの関係を通じて、芸術の追求がいかに人間を追い詰めるかを鋭く描き出しています。熱意と才能があるにも関わらず、フレッチャーの過酷な教育方法によって精神的、肉体的な限界まで追い込まれるアンドリュー。しかし、その過程で彼の中の隠された才能が開花し、狂気じみた情熱が観る者の心を強く打ちます。映画は音楽と苦悩、そして成功への執着を巧みに描き、その果てにどのような結末が待ち受けるのかを見事に表現しています。
見どころ
『セッション』の見どころは、マイルズ・テラー演じるアンドリューとJ.K. シモンズ演じるフレッチャーの圧倒的な演技です。二人の間の心理戦は、映画全体を通じて緊張感が持続し、観る者をスクリーンに釘付けにします。また、映画中のリアルで激しいジャズ演奏シーンは、音楽と映画の見事な融合を体現しており、これらが組み合わさることで非常にダイナミックで感情的な映画体験を提供します。特に、映画のクライマックスに向けて構築される高まりは、映画の緊迫感を一層引き立て、見る者に忘れがたい印象を残します。
ラ・ラ・ランド
デイミアン・チャゼル監督が『ラ・ラ・ランド』のアイデアを思いついたのはハーバード在学中でした。高校時代をジャズドラムに捧げた後、映画監督を志してハーバードの視覚環境学科に進学。ここで音楽学科のピアニストだったジャスティン・ハーウィッツと意気投合し、共に「Guy and Madeline on a Park Bench」というミュージカル映画を卒業制作として完成させました。この作品が後に『ラ・ラ・ランド』の原型となり製作されました
タイトル | ラ・ラ・ランド |
公開年 | 2016年 |
国 | アメリカ |
上映時間 | 126分 |
ジャンル | 恋愛・ミュージカル |
あらすじ
『ラ・ラ・ランド』は、夢を追う二人の若者のロマンスを描いたミュージカル映画です。ジャズピアニストのセバスチャンと女優志望のミアは、偶然の出会いを経て互いに惹かれ合います。ロサンゼルスという夢と希望が交差する街で、二人は自分たちの夢と恋愛を育んでいきます。しかし、夢に向かって進むにつれて2人の関係はさまざまな試練に直面し、理想と現実の間で葛藤することになります。
見どころ
『ラ・ラ・ランド』の魅力は、映画全体を彩る豊かな色彩と、心に響く音楽、そして感動的なストーリーテリングにあります。特に、ロサンゼルスを舞台にした壮大なダンスシーンと、ジャズとクラシック音楽が織り交ぜられたスコアは、映画の感情的な深みを増しています。また、エマ・ストーンとライアン・ゴズリングの化学反応は、観る者を魅了し、二人のキャラクターに感情移入させます。2016年度のアカデミー賞で「タイタニック」に並ぶ最多14ノミネートを受け、数々の賞を総なめにしました。
バビロン
『バビロン』では、音楽(特にジャズ)が映画表現の重要な要素として扱われ、その時代の映画業界の変化を象徴的に映し出しています。これらの要素が組み合わさり、1920年代のハリウッドの魅力と狂乱を鮮やかに描いています。
タイトル | バビロン |
公開年 | 2021年 |
国 | アメリカ |
上映時間 | 188分 |
ジャンル | ドラマ・ミュージカル |
あらすじ
『バビロン』は、1920年代のハリウッドを舞台に、映画産業の初期における華やかさと混沌を描いた映画です。この時代は、サイレント映画からトーキーへの大転換期であり、映画業界は技術的、文化的な変革の只中にありました。映画は、上昇志向の若手映画製作者、老練な映画スター、そして業界に夢を抱く新人たちの複数の物語を交錯させながら展開します。彼らは自己の野望を追求する中で、成功と挫折、狂喜と絶望の間を行き来します。
見どころ
『バビロン』の最大の見どころは、1920年代のハリウッドの華麗な再現と、その時代を象徴する過剰と熱狂をビジュアルを豊かに描いている点です。映画は、当時の映画製作の現場を大規模なセットと多数のエキストラを使用して詳細に再現し、圧倒的な映像を提供します。また、ブラッド・ピットとマーゴット・ロビーといった豪華キャストが演じるキャラクターたちは、夢と野心、そして時には破滅的な欲望に駆られる様子を鮮烈に表現しています。映画の音楽もまた、ジャズ時代の躍動感を捉え、映画の雰囲気を一層盛り上げる要素となっています。さらに、映画業界の急速な変化と個々の人物の運命が交錯するドラマティックな物語は、観る者に1920年代のハリウッドの生のエネルギーを感じさせます。
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まとめ
ダミアン・チャゼルの映画は、彼の情熱的な背景と独特の芸術的ビジョンが融合した作品群です。彼の映画は、ジャズと映画という二つの芸術形式の交錯を通じて、観る者に新たな感動と考察を提供しています。『セッション』、『ラ・ラ・ランド』、そして『バビロン』は、それぞれがチャゼル監督の映画製作における革新性と情熱を象徴する作品です。ぜひ次見る映画の参考にしてみては